研究成果の概要

高血圧前症での血清C反応性蛋白値と虚血性脳卒中発症リスク:地域健常住民での検討

はじめに

 2003年に米国で高血圧前症 (Pre-HT)という新しい血圧に関するカテゴリーが提唱された。Pre-HTは心血管疾患 (CVD)の発症リスクとなることが示されている。

 炎症はアテローム性動脈硬化において主要な役割を担っている。そのバイオマーカーである血清C反応性蛋白(CRP)値の上昇が、将来の虚血性心疾患や脳卒中発症のリスクと関係することがこれまで報告されてきた。そこで中高年の地域健常住民を対象にしてPre-HTとCVD発症リスクとの関連性を明らかにし、血清高感度CRP (Hs-CRP)値で層別化した場合の発症リスクを検討した。

 

対象と定義

 岩手県北地域コホ-ト研究への参加を同意した脳卒中、心筋梗塞の既往のない40歳から80歳までの22,676名を対象とした。

ベースライン調査時の血圧値により、以下の3つに分類した。正常血圧 (NT)は収縮期血圧<120 mmHgかつ拡張期血圧<80 mmHg、Pre-HTは120 mmHg≦収縮期血圧<140 mmHgまたは80 mmHg≦拡張期血圧<90 mmHg、高血圧 (HT)は収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHgまたは降圧薬内服例とした。

結果

 対象者のうち、Pre-HTは男性2,144名 (28.0%)、女性3,577名 (23.8%)にみられた。平均2.7年の追跡期間内に143名の虚血性脳卒中が発症した。正常血圧群と比較した虚血性脳卒中発症の調整ハザード比 (95%信頼区間)は、Pre-HT群で1.7 (0.9-3.2)とリスク増加の傾向は有意ではなかった。

次に、血圧カテゴリーをHs-CRPの中央値 (男性 0.5mg/L、女性 0.4mg/L)により分類し、虚血性脳卒中発症との関連を解析した。NT群ではHs-CRP高、低値両群間にリスクの差は認められなかった。一方、Hs-CRP低値のPre-HT群ではHs-CRP低値の正常血圧群と比較した虚血性脳卒中発症の調整ハザード比 (95%信頼区間)が0.9 (0.3-2.7)とリスク増加の傾向はなかったが、Hs-CRP高値の群では2.6 (1.1-6.2)と有意に高値であり、HT群と同等であった (図)。

考察

 今回の研究では、平均2.7年の追跡期間でHs-CRP高値群のPre-HTが虚血性脳卒中発症の高リスクとなることが明らかとなった。Pre-HTの頚動脈内膜肥厚などの動脈硬化性臓器障害との関連や炎症のアテローム性動脈硬化進行への関連が報告されていることから、CRP値が上昇したPre-HT群はアテローム性動脈硬化のより進行した群である可能性がある。Hs-CRPの評価により、Pre-HTの中でも介入を要するハイリスク例の同定が可能になるかもしれない。

  血清CRP値で層別化された血圧カテゴリー別の虚血性脳卒中発症のハザード比