研究成果の概要

推算糸球体ろ過量が保たれている微量アルブミン尿陽性者は、総死亡・循環器疾患死亡のハイリスク集団である

欧米の大規模なコホート研究では、推算GFR値が高く、蛋白尿を有するものので死亡リスクが高くなっていることが示されています。推算GFRが高い者で死亡リスクが高いことの理由として、がん患者や栄養不良者などの骨格筋量が少ない対象者では血清クレアチニン値が低下し、そのため実測GFRに比べて推算GFRが過大に評価されてしまうこと、そしてこれらの者が非常に死亡リスクが高いことが主要な理由として考えられています。しかし、この関係性については十分な検討が行われていません。また死亡リスクが上がる理由として、どのような死因が死亡リスクをあげているのかを確かめる必要があります。

岩手県北コホート研究に参加した40歳から69歳の男女で推算GFRが正常または軽度低下していた(45 ~ 119 ml/min/1.73 m2) 16,759名を対象に前向きのコホート研究を実施しました。対象者を6グループ(group 1, eGFR: 90 ~ 119 アルブミン尿(-); group 2, eGFR: 90 ~ 119 アルブミン尿(+); group 3, eGFR: 60 ~ 89 アルブミン尿(-) (対照グループ); group 4, eGFR: 60 ~ 89 アルブミン尿(+); group 5, eGFR: 45 ~ 59 アルブミン尿(-); group 6, eGFR: 45 ~ 59 アルブミン尿(+)) に分類して、ポワソン回帰による多変量調整死亡率比を算出しました。もっともリスクが高かったのはグループ2(eGFR: 90 ~ 119 アルブミン尿(+))で総死亡相対危険(95%信頼区間)は3.95 (2.08-7.52)、循環器疾患死亡相対危険は7.15 (2.25-22.7)、新生物死亡相対危険は3.25 (1.26-8.38)でした。この集団属性をみると、年齢は比較的若く、BMI、HbA1c、血圧値がほかのグループに比較して有意に高いことが判明しました。

研究結果を解釈すると、推算GFRが保たれ尚且つ微量アルブミン尿を有する若くてメタボな集団は、死亡リスクと循環器疾患死亡リスクが非常に高いハイリスク集団と考えられ、少なくとも、この関係性にはるい痩やがん死亡リスクの上昇は関わっていないことが判明しました。

総死亡相対危険