研究成果の概要
血漿BNP濃度は高血圧患者の心血管リスクの層別化に有効である: 地域住民を対象にした検討
佐藤権裕ら(Am J Cardiol)
背景:心臓から分泌されるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は心筋への負荷の増大や循環血液量の増大など心臓に負担がかかると高値となる。そのため血漿BNP値は心疾患の重症度判定などに有用であるとされている。しかしながら、高血圧患者を対象にした血漿BNP値と心血管事故(心筋梗塞・突然死、心不全、脳卒中など)の発症し易さの関連について検討された報告はほとんどみられない。
目的:本研究では血漿BNP値が高血圧患者のリスク評価に有用であるか、また確立された心血管疾患発症のリスク評価に血漿BNP値を加えることにより改善するかを検討した。
方法:岩手県北コホート研究の参加者から、高血圧を有する40歳以上で、心血管疾患の既往がなく、血漿BNP濃度を測定した計5,865名(男性2,145名、女性3,720名、平均年齢66±9歳)を対象とした。対象を血漿BNP値により4分位群に分け、カプランマイヤー法で心血管事故発症率との関連を調べ、Cox多重回帰分析で相対危険率を検討した。さらに冠動脈疾患発症の予測に用いられるフラミンガムリスクスコア(FRS)に血漿BNP値を加えた場合の事故予測の改善効果を検討した。
結果:平均追跡期間は5.6年で382名が心血管事故を発症した(心筋梗塞・突然死72名、心不全52名、脳卒中258名)。カプランマイヤー法の検討ではBNPの高い群でより心血管事故の発症率が高くなった。糖尿病や喫煙など古典的なリスク因子で補正しても高い群は低い群に比べ1.6倍発症し易かった(相対危険度: 1.59、95%信頼区間1.16-2.19)。さらに血漿BNP値をFRSに加えた際、FRS単独モデルで評価するよりも心血管事故リスクの層別化能の改善が見られた。
結語:血漿BNP値は単一でも高血圧患者の心血管疾患発症予測の有効な指標であり、また、従来の予測指標に加えることで、さらにその予測能を改善させるものと考えられた。