研究成果の概要
血圧を2回連続で測った場合、男性では1回目の高い血圧が脳心血管疾患の発症に関連するが、女性ではそうでない.
蒔田真司 Clin Exp Hypertens.2014 (in press)
血圧の上昇が様々な脳心血管疾患を引き起こすことは広く知られています.一方、血圧を1機会に2回連続して測った場合、2回の測定値に大きな差が見られることが少なくありません.2回目より1回目の血圧が高く測られることが多く、これは精神的緊張が影響しているものと一般には解釈されています.しかし、病院の診察室や健診時の血圧について1回目と2回目の血圧測定値のどちらを採用すべきか、また、1回目の数値が高いのに2回目で正常値となった場合の判定はどうすべきか、などについて明確な答えは知られていません.
本研究は、2回連続で測定された各々の血圧値(収縮期血圧)と脳心血管疾患(CVD;心筋梗塞と脳卒中の複合転帰)の発症との関連性を解析し、その特徴と性差を検討したものです.岩手県北地域コホート研究の参加者のうち40~79歳で脳心血管疾患の既往と心房細動がない23,344人(男性7,763人、女性15,581人)を対象としました.登録時に、数分の安静の後、2回連続して上腕の血圧を測定しました.
平均5.5年の追跡期間中に男性301例、女性323例のCVD発症が確認されました.2回目の血圧が正常範囲(140 mmHg未満)にあった例での検討で、男性では1回目の測定時に高血圧(140 mmHg以上)を示した群でCVDリスクの上昇が確認されました(血圧120 mmHg未満の群に比べたハザード比2.06).しかし女性ではこの様なCVDリスクの上昇はみられませんでした(同ハザード比0.80).また1回目の血圧が高値(140 mmHg以上)を示した例での検討で、男性では2回目に測定した血圧のCVDリスクへの関与は確認されませんでしたが、女性では2回目血圧が140mmHg以上の群に比べて130mmHg未満の群で明らかにCVDリスクが低下していました(ハザード比0.23).
これらの結果から、以下のことが推測されます.1)収縮期血圧値のCVDリスクは、男性では1回目測定値に比較的強く反映されるが、女性ではその様な傾向はない.2)男性では、1回目測定値が高値であれば2回目測定値が正常範囲であってもCVDリスクが高いが、女性ではそのような関連性はない.従って、男性では1回目の高い血圧を評価判定から外すべきではなく、2回測定の平均値を採用するなど1回目の値を十分に加味した評価が必要と思われます.一方、女性では、測定前行動や精神的緊張に起因していると考えられる1回目の高い血圧値には臨床的意義が小さい可能性があります.
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