研究成果の概要
喫煙者では炎症反応が亢進しているが、5年以上禁煙している人は非喫煙者と同等となる
アメリカなどの大規模な研究では、タバコを吸っている人では、全身の炎症反応が軽度上昇していることがバイオマーカ(高感度C反応性たんぱく質(CRP)、フィブリノゲン、炎症性サイトカイン(IL-6、TNFαなど))の測定により示されました。また、炎症反応の亢進が将来の循環器疾患発症の危険性と非常に強く相関することが示されています。
従来の古典的危険因子(高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常、喫煙など)は、全身の炎症反応を亢進させて、炎症反応そのものである動脈硬化症を発症させて悪化させるという仮説が提唱され、現在の有力な動脈硬化症発症進展仮説として受け入れられています。喫煙は有力な動脈硬化症の危険因子であり、喫煙そのものが炎症反応を亢進させることが多くの研究で示されています、しかし、喫煙本数が多くなるほど炎症の程度より強くなるのか?喫煙をやめると炎症反応は時間とともに低下していくのか?といった疑問に対する回答は得られておりません。
本研究では、岩手県北コホート研究に参加した二戸地域の男性1926人を対象として登録時に行われた問診表による喫煙状況と血清高感度CRP値との関係性について横断解析を試みました。交絡因子で調整したCRP値を、喫煙状況(現在喫煙者、禁煙者、非喫煙者)で比較し、更に、喫煙者では喫煙本数によって3群(1-19本/日、20-29本/日、30本以上/日)に分け、過去喫煙者では2群(禁煙期間5年未満、禁煙期間5年以上)に分けて多変量調整CRP値を比較しました。その結果、喫煙男性では明らかに調整CRP値が高いこと、過去喫煙者では、5年以上禁煙している者で調整CRP値が非禁煙者とほぼ同じ値になること、喫煙本数とCRP値に間に用量依存性の関係性が観察されなかったことを確認しました。これらのことは、タバコをすうと全身の炎症反応が亢進すること、炎症反応はタバコの本数が多くなってもさらに亢進するわけではないこと、禁煙をしても5年程度は炎症反応が亢進したままであることを間接的に示唆しています。本研究結果は、喫煙行為は感受性の高い人では炎症反応を引き起こすスイッチを入れますが用量依存性に炎症を亢進させるわけではないことを示しています。タバコに対する感受性(遺伝体質)と予後との関係性についても今後の研究の進展が期待されます。
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