研究成果の概要

血清LDLコレステロール値正常男性の心筋梗塞/心臓突然死の残存リスク:他のコレステロール指標の有用性

はじめに

血清高密度リポ蛋白コレステロール(LDL-C)が冠動脈疾患(CHD)の危険因子であることがよく知られているが、一方でCHD罹患患者のほぼ半数はLDL-C値が正常であることが報告されている。

近年、LDL-Cに比較して、総コレステロール(TC)もしくはLDL-Cと低密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)との比や非HDL-C (Non-HDL-C)のアテローム硬化性心血管疾患の予測精度が高いと報告されている。そこで、LDL-C正常値例で、これらのコレステロール指標がCHD発症の残存リスク予測に有用かどうかを検討した。

対象と定義、方法

岩手県北地域コホ-ト研究への参加を同意した脳卒中、心筋梗塞の既往がなく脂質低下薬を未内服の40歳以上の男性7,931名を対象とした。血清LDL-C < 120mg/dlをLDL-C正常と定義した。コックス比例ハザードモデルを用いて、LDL-CとHDL-C, Non-HDL-C, TC/HDL-C, LDL-C/HDL-Cと心筋梗塞/心臓突然死 (AMI/SCD)発症との関連を解析した。

結果

平均追跡期間5.5年のあいだに、LDL-C正常値の男性4,827名中、55名のAMI/SCDが発症した。各コレステロール指標の一標準偏差(SD)増加におけるAMI/SCD発症の調整ハザード比 (HR)は、Non-HDL-C (HR = 1.36、95%信頼区間[CI]、1.02–1.81)、TC/HDL-C比(HR = 1.40、95%CI、1.11–1.78)、LDL-C/HDL-C比 (HR = 1.32、95%CI、1.02–1.73)では有意な関連が見られたが、LDL-C(HR = 1.09、95%CI、0.82–1.44)、HDL-C(HR = 0.84、95%CI、0.68–1.04)では関連性が乏しかった。次に、受信者動作特性曲線下面積 (AUROC)からのNon-HDL-C、TC/HDL-C比、LDL-C/HDL-C比のイベント予測精度の最適値により、これらのコレステロール指標を2群のカテゴリに分類した。AMI/SCD発症の調整HRは、非HDL-C ≥ 126mg/dl(HR = 2.02、95%CI、1.17–3.50)、TC/HDL-C比 ≥ 3.5(HR = 2.43、95%CI、1.39–4.26)、LDL-C/HDL-C比 ≥ 1.9(HR = 2.06、95%CI、1.17–3.61)であった。 (図)。

考察

今回の研究で、血清LDL-C値正常 (< 120mg/dl)の男性において、非HDL-C、TC/HDL-C比、LDL-C/HDL-C比がAMI/SCD発症の高リスクと関連することが明らかとなった。LDL-Cと比較して、非HDL-CやTC/HDL-C比、LDL-C/HDL-C比は頸動脈や冠状動脈の硬化、メタボリック症候群、インスリン抵抗性との関連が強いことが報告されている。これらの報告は、今回の結果を裏付けている可能性がある。

以上から、非HDL-C、TC/HDL-C比、LDL-C/HDL-C比は、血清LDL-C値正常男性におけるAMI/SCD発症の残存リスクの評価に有用であると考えられる。

血清LDL

図:血清LDL-C値正常< 120mg/dl)男性における各コレステロール指標とAMI/SCD発症との関連

本概要の引用元

Tanaka F, Makita S, Onoda T, Tanno K, Ohsawa M, Itai K, Sakata K, Omama S, Yoshida Y, Ogasawara K, Ogawa A, Ishibashi Y, Kuribayashi T, Okayama A, Nakamura M; Iwate-Kenco Study Group.Predictive value of lipoprotein indices for residual risk of acute myocardial infarction and sudden death in men with low-density lipoprotein cholesterol levels <120 mg/dl.Am J Cardiol. 2013;112:1063-8.