「岩手県北地域コホート研究」について

追跡データ取得の工夫

大規模疫学研究で最も大変な追跡調査について、従来のコホート研究の方式(毎年の確認や電話確認など)では対象者の数が多く、限られた予算の中では実現する事が出来なかったため、発症や死亡の把握の枠組みに工夫した。

(表)追跡調査の詳細

エンドポイント 参照データ データ保有者 概要
死亡 住民基本台帳
(死亡の有無)
市町村 市町村ごとに住民情報の照会または住民基本台帳の閲覧を行い、対象者の生死および転出の有無を確認。死亡の場合は厚生労働省の承認を受けたうえで対象地域を管轄する保健所において死亡小票を閲覧し、死因を同定した。
死亡小票(死因) 保健所
脳卒中 岩手県地域脳卒中登録事業
(1991年~)
岩手県医師会 岩手県および県医師会が全県下医療機関の協力のもとに1991年から実施している脳卒中の全数登録調査(岩手県地域脳卒中登録事業)の情報との照合を行い、研究対象者の脳卒中発症状況を把握。登録漏れを防ぐために、脳卒中急性期診療を担当するすべての病院において、医師会から派遣されたリサーチナースに よる全入院診療録の確認も行われている。
心筋梗塞、
心不全、
突然死
岩手県北心疾患発症登録調査
(2003年~)
岩手県北心疾患登録協議会 県北地域コホート研究とほぼ同時(2003年)に、岩手県北地域および沿岸地域の心疾患発症状況を明らかにすることを目的として岩手県北心疾患登録協議会が組織され、急性心筋梗塞、突然死およびうっ血性心不全の全数発症登録が行われている。この登録情報との照合を行い、研究対象者の心疾患発症ならびに突然死の状況を把握した。脳卒中と同様に、リサーチナースによる全入院診療録の確認も行われている。
要介護認定 要介護認定情報 保険者
(市町村または広域行政事務組合)
承諾が得られた対象者について、市町村または広域行政事務組合の管理する要介護認定情報とのデータ照合を行い、一致するものについて要介護認定情報を取得。要介護認定者については、認定年月日、認定結果、一次判定結果および認定調査項目の各結果の提供を受けた。介護情報の収集は岩手県環境保健研究センターが実施。

* いずれのデータも、ベースライン時の対象者の書面による同意を前提として収集が行われている。

脳卒中については岩手県と県医師会による登録事業が1991年からあり、そのデータを利用した。他方、心疾患については利用できる登録研究がなく、岩手医科大学の第二内科(現・内科学講座心血管・腎・内分泌内科分野)の中村元行教授とともに、心疾患発症登録事業を新たに立ち上げた。研究対象の3地区のみのカバーとし、本研究のためだけでなく、データの精度を保てる規模にとどめることで日本人の地域発症登録データベースとして単独でも意義のある研究とした。対象疾患には急性心不全も含んだ。

上記のような工夫により労力・コストを削減しつつ、従来型のコホート研究では難しかったシステムを実現した。