「岩手県北地域コホート研究」について

研究の歴史と特徴

歴史

岩手県北地域コホート研究は、岩手県北部の宮古・久慈・二戸の3保健医療地区の住民約26,000名を対象に、脳卒中、心疾患をエンドポイントとする大規模なコホートである。実施には、岩手医科大学、岩手県、市町村、岩手県医師会、岩手県予防医学協会、基幹病院が共同して行っている。ベースライン調査は平成2002-2004年度に実施され、生活習慣や健康診断の結果が循環器疾患発症や要介護状態にどのように影響を及ぼすかを明らかにする予定である。

特徴

本研究は、岩手県および岩手県医師会の行う地域脳卒中発症登録事業および岩手県北の循環器科で構成する岩手県北心疾患発症登録協議会による地域発症登録と連携して対象者の脳卒中、心筋梗塞および心不全の罹患について追跡を行っている。登録精度を高めるため、診療録の確認作業を継続して実施し、対象地域のそれぞれの罹患率を明らかにしている。また、研究の対象となっている県北地域は、沿岸部や内陸部など気候や地形の異なる地域が含まれており、その違いと栄養調査などの検討も行われている。

大規模なコホート研究とすることで、過去に十分な検討ができなかった発症率の低い女性の心疾患やくも膜下出血の危険因子を検討することを目的として研究が開始された。対象の医療圏は前述の通り高齢化が進行する典型的な農山村・漁村地域で、日常生活動作(ADL)の低下や寝たきりの問題も公衆衛生学的な課題となっているため、要介護認定状況もエンドポイントに含めた。

当初の予算が限られていたため,研究の実施体制にはさまざまな工夫を凝らした。例として、ベースライン調査の実施にあたり、岩手医科大学(衛生学公衆衛生学講座、内科学講座心血管・腎・内分泌内科分野、内科学神経内科・老年科分野、脳神経外科学講座)とともに岩手県予防医学協会(健診実施機関)が共同研究者として参加し、健診実務に協力した。大学、県、市町村、県医師会、予防医学協会、地域の基幹病院、保健所などの立場や場所の垣根を越えた人と組織が協力することにより、地域全体が学術研究の場となった。最終的な対象者の登録は2万6000人あまり(当初の目標は2万人)となり、追跡率は99%以上と非常に高い。スケールメリットを生かし、短期の追跡で解析に必要なデータを得られ、研究開始から約10年で、hsCRPやBNPと虚血性脳卒中・心不全・心血管イベントとの関連、飲酒やLDL-C/HDL-C比と心筋梗塞との関連、診断基準別の推算糸球体濾過量(eGFR)と循環器疾患発症リスクとの関連など、多くの成果を報告する事が可能となった。